同一労働同一賃金~非正規社員に対する退職金について~
多くの企業で整備されている退職金制度ですが、その内容は長期勤続に対する功労報償や在職中の賃金後払い、老後生活の補助・保障などといったものになります。
会社ごとに支給要件に違いはありますが、同一労働同一賃金の観点から非正規社員に対する退職金への対応を見ていきましょう。
同一労働同一賃金~非正規社員に対する退職金への対応~
同一労働同一賃金の観点から、様々な形の働き方がある中で、非正規社員に対する退職金への対応が求められてます。
パート・アルバイトといった非正規社員は短期的な就労と考えられ、長期雇用を前提とした退職金の取扱いが問題になることはあまりありませんが、雇用者の4割近くを占める非正規社員の中では、無期契約のパート社員もいれば、有期雇用であっても契約更新を重ねることで長期にわたって働く契約社員もいます。
退職金の取扱いについてガイドラインをみると、原則的な考え方の記述はありませんが、退職金が同一労働同一賃金制度の対象範囲に含まれないということではありません。
判例にみる「不合理とみなされる対応」とは?
令和2年10月、不合理な労働条件の相違を禁止した旧労働契約法20条・退職金に関して争われたメトロコマースと呼ばれた事件について、最高裁の判断についてみていきましょう。
メトロコマース事件といわれたこの判例は、駅構内の売店業務に従事する正社員と契約社員との退職金をめぐる労働条件の相違が不合理として争われた内容となります。
第一審(地裁)は「有為人材確保論」が肯定され退職金不支給でも不合理ではないと判断されました。
また、第二審(高裁)は反復更新して10年以上勤務していた契約社員にも退職金の賃金後払い・ 功労報償的性格は及んでいるはずとし、初めて不合理の判断を示し、正社員基準の4分の1の退職金を認めました。
注目すべきは、最高裁の判断です。最高裁では下級審と同様に退職金制度は「有為人材確保論」を理由に設けられたとした上で、職務内容や職務の変更範囲について、売店業務に従事する正社員と契約社員との職務内容に一定の相違があったことは否定できないとし、退職金支給にかかる労働条件に相違があることは不合理とまではいえないと判断しました。 ただし、この判決には裁判官の退職金不支給は不合理とする反対意見と補足意見が付けられています。
補足意見では労使交渉を行うなど、職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは、旧労働契約法20条やこれを引き継いだパート・ 有期労働法8条の理念に沿うものといえるとしています。
最高裁の判決を受けて、契約社員に退職金支給は不要と考えるのではなく、正社員とは別個の退職金制度の導入を検討したり、正社員にのみ退職金を支給する場合には、退職金の支給目的や「職務の内容」「職務の内容・配置の変更」などの違いを明確にしたりするなど、不合理とみなされないよう対応していくことが必要になります。