判例~即戦力社員の本採用拒否の有効性を認定・濫用には当たらず~
即戦力となる高度人材としてコンピュータ・ソフトウェア関連事業の会社に採用された従業員が、試用期間満了時に解雇された事件です。解雇された従業員は地位確認等を求める訴えを起こしますが、この請求は棄却されました。【 N社事件 東京地方裁判所 (令3・11・12判決) 】
試用期間満了時の解雇の有効性が認定された内容とは、どのようなものかみていきます。
解雇権の濫用には当たらず有効
この事件で裁判所は「コミュニケーション上の問題を理由の解雇について、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」とする当該従業員の主張をしりぞけ、解雇権の濫用には当たらず有効と判断しました。
平成31年2月1日、プログラマーやプロジェクトマネージャー等として、日本国内外の企業で長年の実務経験がある当該従業員は、前職でも高額の取引を扱う管理職として勤務していたことから、即戦力社員として、通信業界の専門家「テレコム・イノベーション・アドバイザー」として同社に採用されています。
今回の雇用契約は、日本での最高職位と位置づけられ、試用期間を3カ月とし、年額1,560万円の賃金の支払いが定められていました。また、その職責は「専門知識に基づき、通信業界の顧客の役員・部長級の社員と技術革新について議論し、会社が提供するソリューションの営業につなげていく」ものでした。
日本での最高職位となった職責をふまえ、試用期間中の実際の就労状況等から適格性を見極めていましたが、当該従業員は社内での打合せなどの相手が目的を共有し、認識にずれが生じたとしても相手から合わせてもらえる場合には、相手とのコミュニケーションをとることができるけれども、相手と目的を共有していない顧客に対するプレゼンテーションのように、相手の気持ちを理解し、認識にずれが生じた場合や修正したりしなければいけない状況になった場合には、コミュニケーションをとることが困難な状況に陥るとし、試用期間満了後の解雇と決定しました。裁判所もまたコミュニケーション上の問題があると認定しています。
試用期間満了後の本採用拒否(解雇)について
試用期間満了時の本採用拒否(解雇)とは、試用期間中の就労状況等を観察しながら、その適性を判断し、採否の最終決定権の権利を持ちながら、本採用後の解雇よりも広い範囲の解雇の自由が認められるとされています。
今回の解雇の判断を下したことで「最終決定権の留保の趣旨に照らして客観的に合理的理由を欠くものかどうか、社会通念上相当であると認められないかどうか」が争点となりましたが、当該従業員は、上司から必要な能力等の説明がなく、その評価基準が明らかにされていなかったと主張。会社側は日本人も含む10名による面接を経て採用した経緯から、当該従業員は日本語の言語能力・表現力を採用時から十分に知っていたと主張しました。
お互いの主張に相違が生じていましたが、裁判所は、会社側の主張を認め、高度な業務の遂行が期待され、それに見合った待遇を受けるという採用の趣旨を理解していたとして、当該従業員の主張をしりぞけています。コミュニケーションをとることが困難な状況に陥ることは、採用面接において知ることは不可能であったとして「解雇の権利の濫用には当たらず、有効」判示したのです。