実務相談~複数就業者が被災して休業する場合の労災保険の取扱いについて~
2017年に「働き方改革実行計画」が決定され、副業・兼業などの柔軟な働き方を推進するための環境整備が進められていますが、複数就業者の労災保険の取扱いの改正も進んできています。
実際に寄せられた実務相談をもとに、どのような改正になっているかみていきます。
従業員から足の複雑骨折で入院したと連絡がありました。仕事中の事故ではないと分かっていたので、健康保険の傷病手当金の申請手続きをとろうと思いましたが、従業員は労災の申請をすると言います。確認すると副業先での事故で骨折したらしく、休業給付のための書類を依頼されました。兼業・副業の労災保険の取扱いが改正されたときいていますが、どうのように変わったのでしょう。”
複数就業者の労災保険の取扱い改正の内容とは?
2018年8月、兼業・副業を禁止していた厚労省「モデル就業規則」の規定が「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と見直されました。
さらに、2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定され、複数の事業所で働く人の保護や柔軟な働き方の普及促進の観点から、副業・兼業時の労働時間の管理や、健康管理などに関するルールが明確化され、労災保険についても法改正されました。
今回、被災した従業員が労災保険から休業の給付を受けるということですが、その給付額の算定方法が改正されています。
労災保険の休業補償給付は、通常、労基法の平均賃金を給付基礎日額として算定しますが、複数就業者の場合、以前は労災事故が発生した就業先での賃金を基礎に給付基礎日額を算定していました。
しかし、今回のように副業先で被災した場合、本業の就業先も休業せざるを得なくなることが考えられます。すると、副業先での賃金に基づく休業補償給付だけでは、収入が大幅に低下し、労働者の生活を十分に支えることができなくなるおそれがあります。
このため、労災保険法の改正により、2020年9月からはすべての就業先の賃金額を合算した額で給付基礎日額を算定するようになりました。
給付額の算定内容の改正とは?
例えば、本業先A社(賃金月額20万円)と副業先B社(月額15万円)の2社で働いている場合、B社の業務中に被災すると、以前は、B社の賃金月額15万円をもとに給付基礎日額を算定していましたが、改正後は、A社とB社の合算した賃金額である月35万円をもとに給付基礎日額を算定することになりました。
今回のように、自社で労災事故が起きたわけではなくとも、従業員が副業先で被災した場合でも、労働保険監督署への労災保険給付の請求に関しては、所定の様式に自社での賃金額等について記載し、これを証明する必要があるのです。
その他、1つの就業先で労災認定できない場合であっても、事業主が異なる就業先での業務上の負荷 (労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定できる場合でも、保険給付が受けられます。